イランイランの香りがずっと好き。

この人は墓に住んでいたが、もはやだれも彼を縛っておくことはできなかった。鎖をもってしてもだめであった。
その人はたびたび足かせや鎖で縛られたが、そのつど鎖を引きちぎり、また足かせを打ち砕いたからである。それで、だれも彼を取り押さえることができなかった。
その人は夜となく昼となく、墓や山で叫びたて、自分の体を石で傷つけていた。

自分の身体を石で傷つけること、自分の存在を自分で否認すること。

蓋をしてきたあのことを、知らんぷりを突き通してきたあのことを、言葉にするのはまだとてもつらい。それと同時に、知らんぷりを突き通せなかった、蓋をし続けられなかった自分のみじめさに腹がたってしまう。

「暴力に理由を求めること自体が不毛なんだから」と誰かがささやき続けるけれど、私は涙でしか応えることができない。どうして?って、なんで?って、訊いたら駄目なんだよ。(だって答えはないもん。)っていうのはわかりきっているけれど、ついでに、なんで?が解決されてどーにかなるもんでもないでしょ、っていうまた違う誰かの声も聞こえてくるけれど、そして、だからこそ私は蓋をして知らんぷりをして、もう全部終わってそんなことはどーでもいいの過ぎたことは忘れて私は私の人生を生きるの!って思ってきたけれど、それでも、噴き出したら止まらない「どうして?」に、私はどうこたえてあげたらいいかわからない。

「暴力」の上に積み上げられた、色んな「こたえられないこと」がついでに顔を出す。嫌な噴火、見たくもない地層。すべてを連れて、どろどろに熱された赤銅色のマグマが脳味噌をかき乱す。あぁもう本当に、この身体なんてなければいいのに!と思うたびに、"私"を私が呪う業の深さに涙があふれる。

同時に、私はまだ生きていたいと思う。
私が果たすべきことを、成し遂げるために"生"にしがみついていたいと思う。
あなたを抱きしめたいと思う。